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執筆者の写真西田 圭嗣

LLMを活用したFAQ作成の自動化

更新日:2023年5月7日

大規模言語モデル(LLM)の応用先として大きく期待されているもののうちの一つが、カスタマーサポートの分野です。特に、カスタマーサポートでは顧客やユーザーからの電話による問い合わせの削減を目指すところが多く、代わりにFAQを積極的に拡充することで、顧客やユーザーの疑問をサポートなく解決させる試みが注目されています。このカスタマーサポート用のFAQの作成に対しても、LLMを正しく活用することで、従来の方法からの効率化が期待できます。本稿ではその具体的な方法について考察を行います。


FAQ作成のポイント

FAQ作成を行う際には、どのような質問と回答(QA)を記載するかが極めて重要なポイントとなります。誤った情報や古い情報を避けることはもちろん必要条件ですが、その上で、ユーザーが参照しないQAを作成しないこと、または作成の優先度を下げることも大切です。その理由は、FAQ作成にはコストがかかるため、誰からも参照されないようなQAを作成すると、単純に投下コストが無駄になってしまうからです。従って、FAQ作成はやみくもに行うのではなく、コスト効果を意識して、それが高いQAから順に作成していく必要があります。

問い合わせ頻度を特定する情報源

コスト効果の高いQAを作成することとは、ユーザーの疑問に効率的に対応することを意味します。効率的な対応とは、疑問が発生する頻度が高いものから順に対応することです。このためには、疑問発生の頻度を特定できる情報源の活用が重要となります。疑問発生頻度(≒問い合わせ頻度)の特定に役立つ情報源を利用することで、コスト効果の高いFAQ作成が実現できます。頻繁に発生する疑問から対応することで、より多くのユーザーが効率的に情報にアクセスでき、企業はサポートリソースを節約できます。


例えば、次のようなカスタマーサポートへの問い合わせ記録が、問い合わせ頻度の特定に有効です:

1. サポートチケット

サポートチケットは、顧客やユーザーが製品やサービスに関する問題や不具合を報告し、企業のサポートチームに対応を求める際に発行されるものです。サポートチケットは、通常、サポートポータルや専用のメールアドレスを通じて送信され、サポートチームがトラブルシューティングや解決策を提供します。サポートチケットには、具体的な問題やエラーメッセージ、使用環境などの詳細情報が含まれていることが多いです。そのため、分析がしやすく、問い合わせ頻度の特定にはは極めて有効な情報源になり得ます。


2. 電話サポートやコールセンターのトランスクリプト

顧客やユーザーが電話サポートやコールセンターを利用して問い合わせをされた場合、そのやり取りのトランスクリプト(顧客とサポート担当者の会話が記録されたテキストデータ)も有益な情報源となります。トランスクリプトの分析により、顧客が頻繁に尋ねる質問や懸念事項が把握できます。また、顧客の質問や懸念が変化するトレンドやパターンを特定することが可能です。さらに、トランスクリプトから顧客が用いる言葉や表現を抽出し、それらを質問や回答に反映させることによって、顧客が自分の疑問に合わせて自然に情報にアクセスできるようになります。

これらの情報源から、顧客やユーザーがどのような質問をしたのかを特定し、それをまとめて頻度分布を作成することで、顧客やユーザーが問い合わせる可能性が高い質問一覧を作成することができます。ここで、サポートチケットの内容やトランスクリプトからの質問の抽出にLLMを活用することができます。それらの文章の中から、根源となる質問を抽出するようにプロンプトを構築することで、大量の情報源の中から自動的に質問一覧を生成することができます。さらに、その質問一覧から、同一の意味を持つものを集約したり、ある程度のまとまりにカテゴライズしたりする目的でも、LLMを活用することができます。このようにして、従来は人手で質問の分類や集計を行なっていたところを、ほぼ自動的に行うことが可能になります。


様々な情報源によるQAの拡充

また、自動化により質問を集計するコストを大きく削減することにより、従来は整備の手が行き届かなかったような情報源も利用することが可能になります。例えば、顧客やユーザーから寄せられる様々なフィードバック、コメント、レビューなどは、その情報からは問い合わせ頻度の情報は得られなくても、ユーザーが抱えている疑問の発見という点において一定の示唆を与えてくれます:

1. 顧客やユーザーからのフィードバック

顧客やユーザーからのフィードバックは、製品やサービスに対する意見や感想、提案などを企業に伝えるための情報です。フィードバックは、サポートチケットとは異なり、必ずしも問題や不具合に関連しないことがあります。顧客が製品やサービスの使い勝手や機能についての感想を伝えたり、新たな機能や改善点を提案する場合も、フィードバックとして扱われます。フィードバックは、企業のウェブサイト上のフォームやメール、ソーシャルメディアなど、さまざまな方法で寄せられます。


2. オンラインフォーラムやコミュニティ

顧客やユーザーがオンラインフォーラムやコミュニティで情報交換や質問を投稿することがあります。これらの場では、顧客やユーザーの直接的な意見が共有され、他のユーザーや企業の担当者から回答が得られるため、FAQ作成に用いることができます。


3. ソーシャルメディアやレビューサイト

顧客やユーザーがソーシャルメディアやレビューサイトで製品やサービスに関する意見や評価を投稿することがあります。これらの投稿を分析することで顧客やユーザーの疑問を把握することができます。


これらを活用し、上述の手法を用いてLLMで質問一覧を拡充することができます。あとは、頻度分布を考慮に入れながら、そのうちのどこまでをFAQ整備の対象として含めるかを決めることで、FAQの大枠が定まります。

LLMを用いた自動回答文作成

次に、その集約された高頻度の質問一覧に対して、回答を作成していきます。従来、この回答作成作業は全て人手で行われており、サービスや製品をよく知る企業の担当者が細かく作り込んでいました。しかし、LLMを用いることで、それにかかる労力を一部代替することが可能です。例えば、LLMに対して、回答用の情報源を用いて質問への回答文を作成するように指示すれば、自動的に回答のドラフトを作成することができます。

回答用の情報源は、上記のサポートチケットやトランスクリプトなどに加え、さらに以下のドキュメントを用いると効果的です:


1. 製品マニュアル

製品マニュアルは、製品の機能や操作方法に関する詳細な情報が記載されています。顧客が製品を使いこなすための基本的な知識が含まれているため、回答作成において重要な情報源となります。


2. サービスの利用規約やポリシー

利用規約やポリシーは、顧客がサービスを利用する際に遵守すべきルールや条件が記載されています。これらのドキュメントを用いることで、質問に対して適切に回答することが可能になります。

3. 営業資料やプレゼンテーション

営業資料やプレゼンテーションは、製品やサービスの特徴、価格、競合優位性などの情報がまとめられています。これらの情報は、製品やサービスの価値を説明するのに利用可能です。

4. プレスリリースやニュース記事

プレスリリースやニュース記事は、製品やサービスの最新情報、業界の動向、市場の変化などを提供します。これらの情報は、FAQを常に最新の状況に合わせて更新するために重要です。

ただし、LLMへの文字入力はトークン数などの制限があるため、これらすべての情報をLLMのプロンプトとして入力することはできません。そのため、実際には自動での回答作成の実現にはひと工夫が必要です。最もわかりやすい方法は、簡易的な検索システムを構築し、それらの情報をデータベース内に格納して、必要に応じて検索および参照することです。この方法では、ある質問に対する回答を作成する際、情報検索の仕組みによって回答情報を保持するドキュメントとその記載箇所を特定します。回答情報の在り処が特定されれば、その記載箇所を抽出し、その文章をもとにLLMで回答文を生成することができます。この簡易検索システムの実現には、ベクトル化(OpenAIのEmbeddings APIの利用など)の機構と、それを保存するデータベース、及び質問文のベクトルとマッチングする機構をそれぞれ用意することで可能になります。

品質チェックの自動化

最後に、作成されたQAをチェックします。あまり数が多くない場合は人手でチェックしても良いのですが、チェック用のプロンプトを用意してLLMで一通り自動的にチェックすることも可能です。例えば、予めFAQガイドラインを作成しておき、作成されたQAがそれらの項目に違反していないかを確認します。記述の分量や形体の統一など、基本的な事柄に関してはある程度自動的にチェック及び修正可能です。また、価格やスペックまたは規約などの機微な情報の記述に関しては、事実関係を確認するように警告を促すなども考えられます。


まとめ

ここまで、本稿では大規模言語モデル(LLM)をカスタマーサポートのFAQ作成に活用する具体的な方法について考察しました。この方法ではまず、顧客やユーザーのサポートチケットや問い合わせ音声のトランスクリプトなどの情報源をもとに、LLMを活用して高頻度の質問一覧を作成します。さらにそこから、製品マニュアルやサービスの利用規約などの情報源を用いて、それに対する回答を作成します。その際、簡易検索システムにより回答情報を保持するドキュメントとその記述部分を特定し、その情報を入力としてLLMで回答文を生成することで、回答作成を自動化することができます。最後に、作成されたQAをチェックし、FAQガイドラインに違反していないかを確認します。

このようにして、LLMをカスタマーサポートの分野で効果的に活用することができます。作成したFAQを公開することで、顧客やユーザーからの問い合わせの削減を実現することが期待できます。将来的には、ここからさらにチャットボットや電話自動応答などへと展開していくことで、カスタマーサポートの全自動化も目指せるでしょう。そのためにも、まずは第一歩として、企業内の情報を整理し、活用可能な形にしていくことが重要です。

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