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  • 執筆者の写真西田 圭嗣

価値とコストパフォーマンスの観点から考えるAIの産業応用

更新日:2023年5月7日

AI(人工知能)の急速な進展により、企業や個人が知性という大きな力に容易にアクセスすることができるようになりました。OpenAIが提供するChatGPTの登場を皮切りに、さまざまなAI技術やサービスが現れ、世の中の様相を劇的に変えようとしています。これら新しい技術の活用は、企業の競争力向上や個人の生産性向上に大いに貢献するため、それらを巧みに取り入れることが求められます。


AIは複雑な問題に対して効果を発揮する

大規模言語モデルを始めとする高度な汎用AIは、単純な分析では得られない複雑なパターンや相関関係を発見するのを得意とし、それらを用いた複雑な処理を実行する際に効果を発揮します。例えば、ヘルプデスクなどの現場で、ユーザーの要求を理解し、解決方法を提案するシステムを構築するには、AIを用いるのが良いでしょう。また、AIは大量のデータの分析にも力を発揮し、人間が扱うことが困難な量のデータを効率的に分析して有益な情報を抽出することができます。これにより、従来のアプローチでは解決が難しい問題に対しても、AIを活用により効果的な解決策を見つけ出すことが期待できます。


AIは既存の仕組みを代替できるか

一方、ビジネスの現場においては、パレートの法則が示す通り、価値の大部分が一部のワークフローで実現されることがよくあります。さらに、価値の高いワークフローは、シンプルな法則に基づいていることが多く、往々にしてルールの組み合わせや単純な仕組みの構築で達成可能です。このようなワークフローは、大規模な市場や明確な課題に対して適用され、例として、業務管理システム、在庫管理システム、顧客分析ツール、商品推薦エンジン、マーケティングオートメーションなどが挙げられます。


コストパフォーマンスを考慮すると、上記のようなケースでは、まずはその主要な部分からアプローチすべきというのがセオリーです。従来の戦略は、コストパフォーマンスの高い順にルールやシステムを構築し、ワークフローを実行して価値を実現します。背景の法則が十分にシンプルであれば、その高価値を達成するのに高度な汎用AIを用いる必要はありません。しかし、そこからさらに価値を発揮しようとして仕組みを拡張すると、徐々にコストパフォーマンスが低下し、価値がある一定の限界値に達すると、それ以上はコストに見合わなくなり、効果を得ることができなくなります。


それに対し、高度な汎用AIを用いた場合は、それとは逆のアプローチになります。AIは、低価値部分のワークフローを、十分に低コストで実現できる能力を持つため、従来のルールに基づくシステムが効果を発揮しきれない領域で活躍することができるのです。もしその高度な汎用AIが、高価値のワークフローを、完全に、簡潔に、そして十分安価に達成できるのであれば、そのAIは従来のルールに基づくシステムを代替できるでしょう。


AI導入の3つの観点:完全性、簡潔性、コスト効率性

完全性、簡潔性、コスト効率性の三点をAIが達成可能であるかどうかは、大きな論点です。完全性とは、AIがその価値を余すことなく実現できるかどうかであり、それは、人間の熟練したエキスパートと比較し、それでも価値が高いと言えるかどうかということでもあります。特に、先端の最も高価値な部分に対しては、コストをいくら投下しても十分に賄えるため、そこを代替するには、最も優れたエキスパートが考案する仕組みよりも価値が高い仕組みを提案できることが条件になります。熟練したエキスパートは、現象を見るだけで直感的に仮説を構築(アブダクション)する能力を備えており、大量の言語資源と人間によるフィードバックから学習されたAIがそれを完全に模倣できるかは定かではありません。


簡潔性とは、適用されるルールや仕組みが十分にシンプルであることを意味します。ビジネスの目的を設定するのは人間であり、最終的な意思決定を人間が行う以上、その意思決定者が正しくその論理を理解しなければならないため、そこには意思決定者の理解能力という制約が存在します。なので、その制約を考慮に入れ、意思決定者が理解可能な程度にシンプルな論理を提供することが重要です。


コスト効率性とは、完全性と簡潔性の基準を達成することが、人間のエキスパートや作業者を利用することより低コストに収まること言います。高度なAIを用いるより、人海戦術で達成する方がコストメリットがあるのであれば、ビジネスとしてはそちらを採用することが合理的になるため、AIが十分に低コストであることが求められます。また、同時に、高度なAIの採用が、シンプルなルールや仕組みを用いることと比較可能な程度に低コストであることも必要です。そこには、多少の質を犠牲にしてでも、コストが十分に低いのであればシンプルな仕組みの方を選択するという合理性も存在するからです。


AIが代替するにはまだ課題が多い

これらを考慮に入れると、大規模言語モデルを始めとする高度な汎用AIによる従来の方法の置き換えには、非常に多くの課題があると言えます。従って、当面は従来のシンプルなアプローチと共存していくことが望ましいでしょう。ただ、大規模言語モデルの性能は日進月歩であり、いずれは人間の能力を完全に凌駕することは十分に想像可能です。それが1年後なのか、あるいは5年以上先なのかという予測はさておき、その時に備えて、今からそのような高度な汎用AIの活用に着手することは、この変化の激しい時代に企業の競争力を保つためには重要です。上記の課題が解決され、AIが人間の力を完全に凌駕した時、逆にチャンスとして攻勢に出れる体制を整えておくことが、現時点での最善の策と言えます。

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